本丸より (24)

 

 

I am calling you
 

 

NY 

 

 

 

◆ Baghdad Cafe ◆

バグダッド陥落、そして、フセイン政権崩壊という大きな見出しを表にした新聞を見ながら、思い出したのは、なぜかパーシー・アドロン監督(製作・脚本 1987年)の映画「バグダッド・カフェ」だった。

私がその映画を見たのは1988年のパリで、当時、ラジオからはくどいほど、ジェヴェッタ・スティールが歌う映画の主題歌“Calling You”が流れていた。
「バグダッド・カフェ」は今のドイツがまだ東西に別れていた頃の西ドイツの作品で、その年のカンヌ映画祭でグランプリを獲得している。

映画はアメリカ西部のハイウィエイ沿いの砂漠にぽつんと建つモーテル「バグダッド・カフェ」が舞台となっていて、主題歌のテンポと同じように、ゆるやかにストーリーは転回する。
セクシーな女優やハンサムな俳優は出てこないし、アクションもCGもない。
ハリウッドが作れない映画だと、つくづく感じる。

主人公は夫と離婚したばかりの、太ったドイツ人女性で、彼女は砂漠のオアシスのような存在になって、カラカラになっていたバグダッド・カフェに潤いを与える。

私はこの映画を最高傑作だとは思わないけれども、今でも印象に残っているということは、それだけ、記憶に残るだけの味わいを持った作品だからだろう。

彼女が与えたバグダッド・カフェでの「潤い」を、アメリカはイラクに与えられだろうか。
一瞬であっても、フセイン大統領の銅像の頭に掲げられた星条旗が、この戦争の本質をチラッと見せたのではないだろうか。

自由は貴い。
けれども、自分達にとって心地良い自由が、必ずしも万人にとってありがたいと思うとしたら、それは傲慢に過ぎない。

 

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